綱引き合戦
毎日真っ青な空が広がっているトスカーナです。
絵の具の青色を筆にとり、サーっと画用紙に塗った時のような、青い青い空。雲がないので、雲を画く必要もなく、ただひたすら青い色が広がります。
暑い日はあれからづっと続いています。
一番暑いのがイタリア全土ではフィレンツェで、ナポリよりも、ローマよりも暑いようです。
ジェラートが良く売れて、海が賑わう時です。
さて、こんなに暑い日が続いているイタリアですが、日本ほど冷房が使われていない事に気付きました。
トスカーナについて言うと、
先ず、家にクーラーのある所は数えるほどしかない。
扇風機さえ持っていない家が殆ど。
車にさえエアコンがついていない。
やっとこの頃、新車にはエアコンがついたものを買う人が出てきたようですが、まだまだ高速を窓開け放して走っている車が沢山います。
こんなに暑い日が多いのに、エアコンつきの車が少ないとはなんと皆我慢強いのかと思ってしまいます。
では、こんな暑い日、こちらの人たちはどうやって家を涼しく保つのでしょうか。
それは、朝早く空気の入れ替えを済ませたら、さっさと窓の外についているブラインドとそして窓も閉めてしまい、外の暑い空気をシャットアウトするのです。それだけ。
始めてこちらの家に入った時はその家の中の暗さに驚かされました。
特に暑い日差しのある外から入ってくると、一瞬何も見えません。
こちらの人達はこのシステムに慣れており、冬でもあまり窓を開け放す事はしませんので、大体こちらの家は暗く保たれており、蛍光灯の明るい光に慣れている日本の方達は驚かれます。
私はどちらかと言うと、日がさんさんと差し込む家のほうが好きなので、つい窓を開けたくなるのですが、そうすると部屋が暑くなるので、良く主人から、窓を閉めるようにと注意をされます。これが辛い!
私の家にもクーラーどころか扇風機もありません。
今の家の中の温度は平均27度。じっと座ってコンピューターに向かっているには丁度いい感じです。
特に焼け付くように暑い外から家に入ってくると、27度の家でも、ひんやりと感じられるのが面白い所です。
これで外に風でもあると、その風が家の中の冷たい空気を揺らし、又気持ちのいいものです。
お店でも、冷房が効いているのは大きなスーパーマーケットや公共の建物くらいで、個人の店では冷房のついているところは、私の小さな町ではありません。
それでも皆まったく平気で文句1つ言いません。
冬が又、個人店には暖房のないところも多く、お店の人がコートを着たままサービスしている姿に最初は驚きました。
ネット上のある日本の新聞で、今年の日本は節電の為、冷房規制をする、と読みましたが、そう言う心配をしなくてもいいのがトスカーナ郊外のようです。
ただし、外はやはり暑い!
まだ6月なのに、こんなに暑くていいのかしらと思います。
日本のように湿気があまりないので、じめじめする事はありませんが、この暑さでは日中は誰も何もしたくなくなります。
「シエスタ」がイタリアに昔からあるのもうなずけるところです。
後は、もう海に行ってしまう事です。
暑くなって私が一番嬉しい事の1つに、洗濯物が直ぐ乾く事があります。
午後4時頃に洗っても、日が陰る頃には乾いている。
これが嬉しくって。お洗濯をしていてもウキウキしてしまいます。
さて、本題の綱引き合戦です。
こちらのそれぞれの町には3地区、4地区と言うようにいくつかの地区がありますが、その地区毎でいろいろ競い合う「パリオ」が、夏の行事となっています。
この時期、どの町を訪問してもこの中世のお祭りが行われており、ラッキーであれば中世の格好をした人達の行列が見られるのです。
シエナでは、裸馬に乗った10地区の騎士達が絹で出来た旗「パッリウム」を目指して走ります。
私の隣町であるヴォルテーラでは、8地区が綱引きでそれを競い合います。
中世からづーっとやって来た遊びという事で、それをこの間見に行って来ました。
夏なのに、中世の洋服は全てベルベットで出来ており、着ている人は暑いだろうなあ、と思いながらも、そのエレガントな洋服にため息が出てしまいます。
女性は長いドレスで足をすっぽり隠しているのに、男性は反対にカラフルなタイツで足を強調します。左右違った色のタイツもあり、中世と今のファッションの大きな違いを感じさせられます。
この中世の服装が、石の町ヴォルテーラでは良く映えるのです。
石で出来た建物は、中世の時のままの姿を保っており、その前に中世の服装をした人がいると、そこだけ急にタイムスリップしたみたいです。
さて、綱引きと言っても私が知っている綱引きは、幼稚園や小学校低学年の時にした綱引きですが、これがなんとちゃんとテクニックがあるのですね。
ただ引けば良いというものではないようです。
綱引き合戦が行われる広場に、昔から使われていた綱引き用の用具が運びこまれてきました。ただの綱引きにしてはかなり大きな作り物です。そしていよいよ、8地区の勇敢な綱引き隊が入場してきました。
1地区に10人。
皆、白い上着にタイツ姿。そしてそれぞれの地区の旗のスカーフを首に巻いています。
女性の姿も見られます。
さすが、皆、強そうな人達ばかり。
勝ち越し戦で行きますが、回りの応援も気合が入っています。
さあ、1組がいよいよ綱引きの体制につきました。
カラン、カラン、カラ~ンという鐘の合図でスタートです。
それぞれの地区には指揮官のような人がつき、その人が「引けー!」とか、「そのままの体勢でー」とか指図し、それに皆が従います。
「引けー!」といわれれば、10人全員が力を合わせて引きます。
「そのままの体勢でー」といわれれば、引いたところでストップし、相手が引いてくるところを制御するわけです。
分かりますか、引いては止まって力をセーブし、又引く、という作戦なのです。
引いてばかりいると力が尽きて、直ぐ負けてしまうので、相手が引き始めれば、力はあまり使わず、でも足を踏ん張って引かれないように守ります。そして相手が引き疲れた所を見計らって、又グイグイと引いていきます。
良く出来ていて、見ているこちらもついつい力が入ってしまいました。
最終的には毎年勝っている地区が、又勝ってしまいましたが、綱を引いている人達も応援している人達も一緒になって、この素朴な遊びを楽しみました。
フィレンツェで又数年前に復活した、怪我人や時には死人まで出る、中世のサッカー地区戦にくらべると、なんとも穏やかな遊びでした。
ちなみに私の住んでいる町では、4地区が演劇をしてその出来を競い合います。
面白いでしょう!
毎年テーマを決め、そのテーマに沿った劇やミュージカルをそれぞれが演出、出演して、一番上手く表現できた地区が優勝となるのです。
若い人から、中年の人まで、皆一生懸命演じており、見ていて楽しいものです。知っている人の顔をその中に見つけたときは、又嬉しい。
私の町では9月の最初の日曜日がこの日です。