ヴェンデーミア(葡萄の収穫)
素晴らしい秋晴れの土曜日、セルジョのブドウ畑のヴェンデーミア(葡萄の収穫)がありました。
勿論、セルジョの家庭用のテーブルワインを作るためです。
葡萄が濡れているとヴェンデーミアは出来ないそうで、雨が降らないようにと気にしながら待った土曜日でした。
朝露が乾くまでと収穫は朝10時に始まることに決まりました。私たちは朝ちょっとした用事があり、セルジョのブドウ畑がある谷に下りていったのは10時半。
見ると、葡萄の収穫に集まった人達はちょうど朝のコーヒーを飲み終わったようで、ぞろぞろとブドウ畑のほうへ歩いていく所でした。
「コーヒーはもう飲んだの?」と奥さんのエレオノーラが訊いてくれます。
「うん、今飲んだばかり!」と私たちもぞろぞろ歩きについていきました。
結局葡萄の収穫が始まったのは11時。
何事も急がない所がイタリア人のいい所です。
葡萄の収穫に集まったのは勿論セルジョの親戚達。
セルジョは唯一の息子ですから、兄弟はいませんが、奥さんのエレオノーラには姉妹が2人いて、それぞれの旦那が2人、その姉妹達の子供達、その子供達に又子供達がいて、それに別のおじさん、おばさん、いとこたちも加わって、今回は結局全部で17名集まりました。
セルジョ家族は典型的な農家一家という感じで、何をするにも家族全員が集まってきます。
年に一回豚を蓄殺して加工するとき、オリーブを収穫してオリーブオイルを作るとき、トマトを加工してトマトソースをいっぱい作るとき、葡萄を収穫してワインを造るとき、等など。
さて、それぞれがハサミを渡されて、葡萄収穫が始まりました。「実が緑のもの、そしてカビが生えたものは捨てること」とセルジョから指図があります。
おいしくて有名なワインを造る葡萄は、全て手で収穫しているという意味が良く分かりました。
勿論、セルジョが作るワインは自分や家族用ですから、たいした気遣いはいらないのですが、でもやはり手で人房ずつ収穫していって造るワインには気持ちがこもっているように思えます。
ちなみに、彼のブドウ畑には、サンジョベーゼ、メルロ、カバルネソヴィニオンがあります。
日差しが強くて、暑いくらいの日で、最高の葡萄収穫日でした。
ブドウ畑には沢山の葡萄が連なっており、落とさないように、壊さないように注意をしながら収穫していくのですが、すぐにうっすらと汗ばんできました。
時折、優しい風が吹いてきてほっとします。
皆がハサミで葡萄を切り取りバケツに積んでいき、それが一杯になるとその場に放置しておきます。
そこへ箱を積んだトラクターが葡萄の木の間をゆっくり移動し、セルジョが葡萄で一杯になったバケツをトラクター上の箱に移していくのです。
葡萄を収穫する人は重いバケツを抱えなくてもいいように出来ていて、またまたイタリアらしい所です。
私は時々葡萄の実を味見してみましたが、それぞれ特徴のある甘さで一杯でした。
赤葡萄の収穫が終わった所でしばらく休憩です。
皆のどが渇いていたようで、ウーヴァ・ダ・ターヴォラ(食用の葡萄)を食べ始めました。
ウーヴァ・ダ・ターヴォラにもいろんな種類があり、セルジョは4種類ほど育てています。
これが又甘いのです。甘くてジューシーで、食べ始めると止められないくらい。
丸っこい実や少し長めの実などがあり、それぞれが違った味です。
本当にリッチ。
休憩が終わったあとは白葡萄の収穫が始まりました。
これがなんと難しくてびっくり。
白葡萄は少し握った、というか触ったくらいでジュースがどーっとあふれ出て来るのです。
あらあら、といった所。
葡萄を握った手もハサミを持った手もすっかり濡れてしまいました。
その前の赤葡萄を収穫したときも、あまりの甘さで手がべとべとしていましたが、白葡萄はさらにジューシーで、収穫するにはさらに気を遣うことになりました。
結局1時間半ほどで全ての収穫が終わり、いよいよ待ち焦がれた昼食の時間です。
いえ、多分私だけが待ち焦がれたのかもしれませんが、こんなに沢山の人が集まるときの昼食はダイナミックでおいしいので、私が葡萄の収穫に来たのも、実は昼食が目当てだったこともあるのです。(笑)
セルジョは、ブドウ畑のある谷に立派な石造りの山小屋を作り、そこにはピッツアが焼けるオーブンまであります。
そしてここでの昼食が嬉しいのです。
さて、この日のメニューは、エレオノーラ手作りのパスタ・タリアテッレとフンギソース。
そしてコ ストリーネ(リブ)、ソーセージそしてパンチェッタのグリルです。
ドラム缶を半分に切って作ったグリルには火が赤々と燃えています。
炎がなくなって熱いシャーコールだけになったらいよいよグリルが始められます。
エレオノーラがパスタとソースを作りましたが、現地での料理は全て男性任せです。
火を起こすのもグリルをするのも男性。
女性達は料理が出来上がるまでおしゃべりに熱中です。
私は葡萄の収穫で少し疲れていたのと、そしてお腹も空いていましたので、イスに座って、ひたすらボーッと肉が焼けるのを見ていました。
少しずつ香ばしい匂いがしてきて、肉もいい色に焼きあがってきます。
写真を見てください。エネオノーラが抱えているのがコストリーネ(リブ)ですが、これを2枚!そして、長さ50cm程の生のソーセージが2本、それから10枚ほどのパンチェッタが焼かれました。
みんなでこれ全部食べてしまったのですから、すごい!
パスタを食べて、肉のグリルとサラダを食べて、フルーツが出て、コーヒーにグラッパが出たのですから、山小屋の中でレストラン並みのメニューです。
手作りのパスタ・タリアテッレがそれはおいしくて、私はつい2回も食べてしまいました。
肉も塩と胡椒だけの味付けなのに、う~~~む、これがおいしい!
やはり期待しただけのことはありました。
楽しい昼食が終わったあとは、セルジョの家に葡萄を運び、いよいよワイン造りの始まりです。
葡萄の収穫は去年に比べると倍もあったそうで、全部で約1000kgの収穫がありました。
先ず、赤葡萄を軽く粉砕し、実もジュースもすべてコンテイナーへ入れます。
ここで5日ほど醗酵させた後、今度はジュースだけを抜き取り、それを又コンテイナーへ戻し熟成させます。
白葡萄の方は、直接搾り機(昔ながらの木の搾り機で、手で搾ります)にかけ、ジュースを大きなビン(ダミジャーノ)に入れ醗酵、熟成させます。
この時出てくるジュースを直接グラスに取って飲んでみましたが、甘いのなんのって。濃縮ぶどうジュースでした。
残った葡萄の搾りかすでは勿論グラッパを作ります。
こうやって見ていると、本当に素朴なワイン造りですが、ワイナリーでもなんでもない、毎日道路工事の仕事に携わるセルジョが、殆ど自分で何でもやってしまうところに感心してしまいます。
こういう人がここには沢山住んでいます。
物があふれていない田舎だからこそ、こういう人たちがまだまだ沢山いるのでしょうが、できる限り自分達でまかなう、そしてそれを楽しみながらやるという所に、社会の生産物に頼らず生きていける強さを感じてしまうのです。