メルカンティーア
この夏は2年前を繰り返すような猛暑になるだろう、と言う予測が早くから出ていましたのでそのつもりで気構えをしていたのですが、1週間ほど前から急に涼しい風が吹き始め、朝夕などは温度が20度以下となり、「ひぇ~~、なんだか肌寒いねー」と言いながらベッドにはいるという、何とも爽やかな夏の日を過ごしていました。
TVでは「夏はどこに?まるで4月のお天気だ」というコメントが流れていたほどです。
出来ることなら7月、8月もずーっとこんな夏だったらいいのになあ、なんて思っていましたが、どうやら又昨日から暑い夏日が戻ってきたようです。
まあ、夏は暑くなるのが当たり前。
冷たく冷やしたスイカにでもかぶりつきながら、仲良くおつきあいをしていきましょう。
そんな夏の夜、イタリアの中では有名な夏祭りの一つとされているお祭りへ行って来ました。
登山電車と詩人「ボッカッチョ」で有名な町チェルタルドで開かれる夏の夜のお祭りです。
このお祭りは「メルカンティーア」と呼ばれ、イタリア全国、そして外国からも多くの大道音楽師と手工芸家達が集まり、一斉にチェルタルドの町でショーが開かれるのです。
「ストリート・フェステイバル」とでも言いますか。
祭りは夜9時から始まると言うことでしたので、夕食を食べたあと出かけて行きました。
途中サン・ジミニヤーノを横切り、1時間ほどでチェルタルドです。
到着したのが9時半頃でしたが、登山電車の乗り場の前にある広場にはそれは沢山の手工芸店が並んでいました。
手作りで想像できる物の全てがここに集まっているようです。
よく見ると広場だけではなく、周りの路地にもずらーっと並んでいます。
それだけで、ここのお祭りがどれほど有名なのか分かります。
私たちは特に10時から始まるインド音楽に興味がありましたので、早速登山電車乗り場に進みました。
乗り場には勿論行列が出来ていましたが、思ったよりスムーズに切符を買うことが出来、15分後には山の上のチェルタルドの町に到着していました。
電車を降りると直ぐに身体全体を真っ白に塗ったエンジェル達に迎えられ、お祭り気分がいよいよ高まります。
このエンジェル達、お祭りの間中一人、又は二人と町のあちこちに出没し、この土臭いお祭りに神秘的な雰囲気を与えていました。
メインのボッカッチョ通りに出ると、中世の建物が夜の闇をバックにオレンジの光に照らされて浮かび上がっており、その通りはずーっと向こうの端まで人で埋まっていました。
ところどころ煙が上がっていたり、音楽が聞こえてきたり、ショーの真っただ中です。
先ずはインド音楽のある中庭まで、と思うのですが、それこそ通りそのものが舞台と化していていろんな物がハプニングしていますので、目を奪われてしまいなかなか前に進みません。
・・っと、大勢のブラスバンドが耳をふさぎたくなるほどの大きな音をさせながら目の前を通り過ぎていきました。
うわ~ぉ、と思っているとその後には、道の端でギターとアコーディオンを演奏しながら歌を歌うおじいさん二人。
とても素朴でそして可愛い。
その横の中庭ではジャズミュージック。
あちらではカントリーミュージック、そしてアフリカンミュージック。
いいなぁ、いいなぁ、と心躍りながら進んでいくと、今度は竹馬に乗った大きな蝶達がひらひら。
もう私の口は開きっぱなし、目は驚きっぱなし。
やっとインド音楽がある中庭の場所を探し当てたところで、突然花火がうち上がりました。
花火まであるとは思っていませんでしたので、なんだか儲けをしたような・・。
先ほどのエンジェルが門の上に乗って花火を見ています。
花火が終わりいよいよ中庭にはいると、ありました、ありました、赤い毛氈を引いた上にインド楽器が並んでいます。
その周りは中庭の草だけで、椅子も何もありません。
どうも地面に座って聴くようです。
でもインド音楽にはこれが合っています。
どこに座ってもいいようなので、私たちは赤い毛氈の真ん前に行き座り込みました。
オレンジの服を着たインド人の音楽家達が出てきました。
彼らは「ベンガラのバウルス」と言い、「心の歌」を歌い続け、町々を訪問しては愛と幸せを運ぶ人たちと言われています。
早速楽器の音程調節などを始めましたが、前に座っている私たちにもっと近寄れと手招きをします。
それで私たちは毛氈やマイクが触れるほどまで近寄ってしまいました。
勿論、インド人の音楽家達の顔や楽器をいじっている手までしっかりと見えました。
ぶお~ん、とタンブラーの音が鳴ると、直ぐに私の体中の細胞がインド音楽に共鳴し、勝手に身体や頭が揺れます。
私はインド音楽が大好きです。
とても神秘的で、心が安らぎます。
ヒンデゥー語が分かりませんので、歌っている歌詞は分からないのですが、殆どの歌は瞑想に関した物で意味深く、ラブソングでも「愛しているよベイビー」なんてものではなく、心に響く言葉が使われているようです。
ギターのような物を演奏している人がどうもこの中では一番偉い人のようで、演奏が始まる前には、インド人らしくお香を焚いていました。
かなりお歳のようでしたが、歌う声がそれは透き通っていて素晴らしいのです。
トスカーナのこんな小さな町でインド音楽が聴けるなんて、夢にも思いませんでした。
もうこれだけでこのお祭りに来た甲斐があったという物です。
最後まで聴いていたかったのですが、そうするとここのお祭りを見ずに終わってしまいますので、後ろ髪を引かれる思いでそこを立ち去りました。
中庭を出て再び人混みの中に入り、今度は手工芸店を覗いていきました。
銀のアクセサリーを作っている人、ひょうたんをくり貫いて電気の傘にしている人、帽子を作っている人、陶器を作っている人、紙を漉いている人、籠を作っている人、石を刻んでいる人、等々。
まだまだこんなに沢山の、それも若い人たちが手で物を作っているのだなあ、と感心してしまいました。
夜も更けて、さあ帰ろうかと言うときに出くわしたのが、火をぶるんぶるん振り回してダンスをするスペイン人のグループでした。
両手に火のついたランプのような物や棒を振り回し、これ又素晴らしい4人のドラマー達の演奏をバックに、ダイナミックなダンスが繰り広げられていました。
周りは一杯の人だかり。
これも勿論道の真ん中でやっているわけです。
見物人たちは火を振り回している人の直ぐ側にいるわけで、ガソリンの匂いがぷーんと立ちこめ、なんだか否応なしに興奮させられます。
クライマックスになり、ドラムはいよいよ高鳴り、5人のダンサー達の火がめらめらと走り回り「うわ~~~!!」となったところで、どんっと終わりました。
そして大きな拍手。
イヤー、良かったー。
実演はやはりいいです。
すっかりエネルギーをもらってしまいました。
時計を見ると夜中の1時をすっかり廻っていました。
時間を忘れるほど楽しいお祭りでした。
7月12日~17日までお祭りは続きます。
来年も、このお祭りを知らない友達を誘って出かけていくことでしょう。