桑の実
今年のトスカーナは夏の訪れが遅いのか、まだ朝夕はひんやりと涼しく、私は気持ちのいい日々を過ごしています。
冬からの雨が多かった日がやっと過ぎ、ここ2週間ほど前から夏らしい太陽が照り始めていますが、まだ土地が十分に湿っているのでしょう、稲狩りが済んだ後は、いつもなら10月過ぎまで茶色に乾燥している田園や丘が、今年はその後から再度雑草が生えてきて、どこも春先のように緑色です。
いつもならとっくに、いなくなっている蛍も、まだ沢山わが家の庭に飛んでいます。
6月下旬というと、じりじり暑い真夏日が普通ですが、こんな涼しい6月下旬もいいものです。
それにしても、一年で最も昼が長く夜が短い6月21日は既に過ぎました。
これから日ごとに日が短くなるばかり。2010年ももう半分が過ぎたとは、信じられません!
わが家の玄関を出ると、階段下に植わっているジャスミンの花が香水のように匂ってきます。
玄関のドアやリビングの窓を開けていると、家の中までその匂いが入ってくることがあります。
庭の隅に小さな井戸があり、その横にピンクのバラの木が植わっていますが、そのバラの匂いが又素晴らしい。
本当にバラの匂いというか、この頃は、お花屋さんでバラを買っても匂いがほとんどしなくなりましたが、この庭に咲いているバラからは正に香水のような匂いが漂います。
この間、蕾をつけた細い枝が折れそうになっていたので、それを切ってリビングのテーブルの上に飾っておいたところ、花が開いて、そのクビが折れそうになるまでの1週間、ずっと素晴らしい匂いを漂わせてくれました。見事です。
私はトスカーナ郊外に住んでいますから、いろんなフルーツの木も周りに見られます。
今月の初め頃にはお隣さんの大きなチェリーの木に実が沢山なり、例年の如く、私たちにもお裾分けが回ってきました。私の大好きな、ブラックチェリーです。
親切なことに、毎回、階下の大家さんちと私たちと、別々の袋を用意してくれます。
そして私たちが頂く量が半端ではないのです。
計ったことはありませんが、大きな紙袋にどっさり。
完熟しているので速く食べるようにといわれて、ジョン・クロードと二人でムシャムシャ、ムシャムシャ、あまりの美味しさに言葉もありません。
ゲップが出るまで食べて、やっと一時打ち切り~。
そうやって3日間、美味しく頂きましたので、さて、いったい何キロあったのか?
私が小さい頃に新聞の4コマ漫画で、筆者が田舎から送られてきたサクランボをゲップが出るまで食べて寝てしまった、というのを見て、いつかは私もゲップが出るまでサクランボを食べてみたいものだと思ったことがありましたが、あれから約40数年後、トスカーナに来てやっとその夢を叶えることが出来ました。
お隣さんに感謝です。
その他にもアプリコットの木、スモモの木、イチジクの木、未だ実はつけていませんが柿の木等が家を中心に立っています。
そんな中、先週、家の庭に桑の木が立っていることを再発見しました。
5年前、大家のダンテが、既に200本あるオリーブの木にもう200本増やそうと、ジョン・クロードと一緒に買いに行ったことがあるのですが、そのとき、お店の女主人が、おまけだよとくれたのが桑の木(gelso-ジェルソ)の苗でした。
ちょうどダンテの孫のエミリーが生まれたときで、彼女の誕生記念にしようと、家の庭に植えたのです。
それが今大きな木になり、沢山の実をつけるようになりました。
桑の実は、見たところブラックベリーに似ていますが、ブラックベリーよりも2倍ほど長い形をしています。
上がその写真です。
桑というと、私は絹を作り出す蚕が食べる桑の葉を思い浮かべますが、桑の実こそ、沢山のビタミンなどを含む素晴らしいフルーツだということを今回初めて知りました。
例えばリンゴと比べてみると、 カルシウムではりんごの13倍、鉄は15倍、カリウムは2倍、ビタミンCは10倍、カリウムを除いてはにんじんと同等またはそれ以上、だのだそうです。驚きました。
こんなに素晴らしいフルーツの木が、わが家の庭の隅にひっそりとたっているのです。ジョン・クロードが実を家に持ち帰らなければ、私はすっかり忘れているところでした。
大家さんちの人たちも身体にいいと知りながらも、木の存在を忘れているのか、ほとんど食べません。
その木が又、採っても、採っても、沢山の実をつけるのです。いったい、なんのためにこの木はこんなに沢山、栄養いっぱいの実を生産し続けるのでしょうか。
理由なんてないのでしょう。
バラにしても小さな野花にしても、人が見ていようがいまいが気にせずに、シーズンがやってくるとひっそりと咲き誇ります。
フルーツも同じ。鳥に食べて貰う為か、それとも人間が食べてくれることを喜んでいるのか、毎年、花を咲かせ、甘いフルーツを生産してくれます。
自然は不思議です。そして、自然は豊かです。
こんな自然の中に身を置いて生活していると、人生ってなんだろう・・?と考えてしまうことがあります。自然の中からいろいろ学ぶことがあります。