ブランド&ポッロ
3日前の木曜日、我が家の犬2匹が突然亡くなりました。
事故でした。
水曜日のお昼過ぎ、天気予報にも出ていなかった悪天候が急にやって来て、稲妻が走り、雷が近くに何度も落ち、激しい雨が2時間半も降り続けました。
私たちは家の電源を全て切り、居間でじっと雨が降り止むのを待つしかありませんでした。
やっと雨が止み太陽も出て来たので、ジョン・クロードは外の様子を見に庭へ出て、私は夕食の支度を始めました。
約40分後、夕食も出来上がり、私はジョン・クロードを食卓に呼ぼうと思ったその時、我が家のキッチン前の庭で何人かががやがやと話しているのが聞こえました。見てみると、大家さんちの奥さんのダニエラと従兄弟夫婦、そしてその子供達が集まっています。
きっと「すごい雨だったねー」なんて話しているのだろうと思ったのですが、ひょっと見ると、彼等の真ん中に4ヶ月前にやって来た子犬のポッロがしっぽを股の間に入れて震えているではないですか。
「どうしたの?」と私がキッチンのテラスから出て訊くと、「ポッロが変なのよ」とダニエラ。
「きっと雷が恐かったんじゃないの」と私は言ってみたのですが、「いや、そうじゃない」と従兄弟夫婦がきっぱり。
そこで私は居間に座っていたジョン・クロードを呼びました。
「ほら見て、ポッロが変なのよ!」
家から出て来てポッロを見たジョン・クロードが、思いがけない事を言いました。
「あっ!ポッロが何を食べたか予想がつく。さっき雨が上がったので庭の様子を見にいったんだけど、その時、家の横にカタツムリ駆除剤の箱を見つけたんだよ。どうしてこんなところにあるのか不思議だったんだけど、中は殆んど空だった。それで僕はその箱をゴミ箱に捨てたんだけど、きっと箱の中に入っていた駆除剤をポッロが食べたんじゃないだろうか」
ポッロは何でも噛む癖があり、家の回りには靴やサンダル、クッションまで噛み砕かれた形で転がっています。
それを聞いたダニエラが「ああ、私の責任だわ!買って来たばかりのカタツムリ駆除剤の箱を外にあるゴミ箱の上に置いておいたのよ。家の中に入れなきゃ、と思いながら入れなかったんだけど、この大雨で箱が地面に落ちて、それをポッロが遊びながら中身を食べたんだわ」と興奮しながら言っています。
さあ大変。ポッロを吐かせないといけない。従兄弟夫婦も一緒になって大騒ぎになりました。
イタリアの家には私の想像もつかないような薬が常備されているようで、嘔吐させるのにいいという液をダニエラが持って来てポッロの口の中にいれましたが、ポッロの様子はどんどん悪化して行くばかり。
同時にダニエラは私たちの町にある獣医に電話をしましたが、獣医は運悪く仕事で海際の町に行っているとか。
そうしている間にもポッロは苦しみで走り出し、とうとう口から泡を吹き始めました。それを見た、もう6年もこの家にいるブランドがポッロに駆け寄ろうとして大変でした。ブランドとポッロはこの4ヶ月間で親子のように親しくなっていたのです。
元々おとなしいブランドでしたが、やってきた若いポッロは直ぐにブランドにじゃれつき、ブランドも若いエネルギーをもらったのでしょう、一緒に遊んだり走り回るようになっていました。
やっと、隣町の獣医に連絡がつき、ダニエラとジョン・クロードがポッロを車に乗せ連れて行きましたが、間もなくポッロが死んだとの連絡が入りました。
獣医医院のところに到着したところで、ポッロは息を引き取ったそうです。ポッロが食べたのは、毒薬の中でも猛毒だったとか。ネズミ駆除剤の解毒剤は医院に常備してあるそうですが、カタツムリ駆除剤に関してはなにもないそうです。
ショックでした。でも、せめてブランドが駆除剤を食べなくて良かった、と言っていたところ、急にブランドも様子がおかしくなり、今度は大きな獣医医院に連れて行くとダニエラは車で約1時間もかかる町にダッシュして行きました。
大丈夫、ブランドはあんなものを食べる犬ではないから、きっと箱を舐めたくらいだろう。身体も大きいし、きっと元気で帰ってくるよ、と私はジョン・クロードと一緒に話していました。夜遅くダニエラが医院から帰宅し、医院で胃の洗浄をしてもらったので、後は回復を待つだけ、と言っていたのですが、残念な事に、翌朝、医院から連絡が入り、ブランドも息を引き取ったと知らされました。帰ってくるとばかり思っていたので、ショックが大きくて。
ブランドもポッロも大家さんちの犬ですが、みんな仕事や学校で出払う時間が多く、在宅で仕事をしている私たちの方が犬と接する時間は沢山ありました。
ブランドは黒のラブラドールで、静かでとっても賢い犬でした。
大家さんが、一番おとなしい子犬を選んでブリーダーから買って来た犬です。
小さいときは、大家さんちの家で赤ちゃんのように可愛がられ育てられていましたが、大家さんちの人たちは時間がないので犬を外に連れ出す事がなく、次第に私とジョン・クロードが外に散歩に連れて行くようになりました。ブランドは私たちに良く懐いて、我が家のキッチン前に横たわる事が多くなりました。4ヶ月前にやって来たポッロもブランドの後をどこまでもついて来るので、二人で一緒にキッチン前に良く座っていました。
朝は、ジョン・クロードが鶏にえさをやるのについて行き、夕方になると私とジョン・クロード、そしてブランドとポッロの4人(二人と2匹)で散歩に出かけました。時間になると2匹が階段の下で待っているのです。亡くなる前日も散歩をしました。
ブランドの死は、予想をしていなかっただけに本当にショックで、私とジョン・クロードは翌日と翌々日、何をしていても涙があふれて来て仕方がありませんでした。
ジョン・クロードはポッロの最後を見ていますし、ブランドとポッロの墓穴を庭のオリーブの木の下に掘っていますから、ショックも大きかったと思います。
「ブランドは一番いい子だー」と私がブランドに言うと、彼の大きな身体を私の身体に預けてお腹を見せるように寝転がってきた姿が目に浮かんできて、あんなにいい子がこんなに早く逝ってしまうなんて信じられないと泣けるばかりです。
でも、親子のように仲良くしていた2匹ですから、一緒に旅立つ事ができて良かったのかもしれません。
今日になってやっと私もジョン・クロードも涙が止まりました。今回は、こうして愛しい人や動物との別れが急にやってくるのだという事を新たに認識させられました。キッチン前の庭を見ると今にもブランドやポッロが現れるようで淋しいですが、今日も太陽が輝いています。やる事をやるだけです。人生、楽しまなければいけません。