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刑務所内で夕食

紀元前3世紀に作られ、トスカーナでは最も古い町の一つといわれるヴォルテッラ。
中世にはアラバストロという石の細工で有名になり、今では世界各国から観光客がやって来ます。
60年代には「ブーヴェの恋人」という映画がここで撮影され、数年前には「トワイライト・サーガ:ニュームーン」が撮影された、魅力ある石の町ヴォルテッラは、私の隣町です。
「ブーヴェの恋人」の撮影については、こちらのトスカーナ日記に書いています。www.deeshan.com/guide/diary05/diary20.htm

私がトスカーナに来た当時、私の住んでいる小さな町では見つけられないものを求めて、この町へよく買い物に行ったものですが、ここ10数年の間に私の町でも買い物がしやすくなり、また、海辺の町チェチナにオーガニックのお店やブティックを見つけたこともあり、ヴォルテッラにはしばらく行かなくなっていました。
ところが数日前、このヴォルテッラにある要塞の刑務所に出向くことになりました。
私がこう言うと、聴いた人は必ず目を大きく見開いて「どうしてまた刑務所へ・・・?」という顔をするのですが、いえ別に悪いことをして行ったのではなく、実は、私たち、刑務所の中で食事をして来たのです。
今回で2度目です。
トスカーナ日記を見ると、初回は2007年の5月でした。
www.deeshan.com/guide/diary07/11.htm

2週間前に大家さんちの奥さんダニエラが、
「また刑務所の食事に行かない?」
と私たちを誘いに来た時は、一度経験済みだからと直ぐに断りました。
「でも、今回はヴィーガン食なんだって」
というのを聞いて、俄然興味が湧いてきました。それも、ローマにあるヴィーガンレストランのシェフがやってくるというのですから、是非、試食してみたいではないですか。
本物のヴィーガンは、ミルク、卵、砂糖等を使わない上に、野菜を42度以上の温度では料理しないと聞いています。刑務所ではどんな料理が出るのだろうか。私たちはダニエラと一緒に行くことにしました。
今回のヴィーガン夕食は1人30ユーロ。クレディットカードで前払いです。
このお金は虐待されている動物を助ける協会に寄付されるということです。

刑務所に入る際、今回はバッグ持ち込み禁止になっていました。特に携帯電話の持ち込みがいけないようです。
私は身分証明書をズボンのポケットに入れ、ジョン・クロードは身分証明書と50ユーロ札一枚(使わないと思いましたが、念のため)、そしてカーキーだけをポケットに入れて向かいました。
今回の予約者は100人。入場時間は19時半ということでしたが、正面ドアが開いたのは20時。
中に入り、先ずは自分の身分証明書を差し出して、警察官の渡してくれる番号と引き換えます。それから、金属探知機を通れば、次の場所へと移動。
歩いて行くとバーがあり、その外に小さな広場があります。そこから次の鉄門に入るようなのですが、鉄門はまだ閉まっているので、100人の参加者達はそこで立って待つことになりました。
そして待つこと約1時間、やっと次の鉄門が開きました。
「お~~、やれやれ」、「さぁ、行こうー」
と私たち参加者はホッとした声を上げ、警察官の誘導で鉄門を入って奥へ奥へと歩いて行きました。

今回は7月ということで、食事は刑務所の中庭でした。
長い間待たされてお腹の空いた参加者達は、天ぷらのような揚げ物をしている屋台に飛びつきました。アペルティブです。飲み物はスプマンテ。
その時間ですでに21時過ぎ。食事のテーブルに座ったのが21時30分。
それから女性刑務館長の挨拶があり、やっとアンティパストが運ばれてきたのは22時近くでした。
私はこの時間ですっかり疲れており、食欲も何処かへ飛んでいました。
長い話を少々短くしまして、アンティパストの次にプリモ、そしてセコンド、ドルチェと続いたこの夜のヴィーガン夕食が終わったのは23時半!
参加者達は文句を言うでもなく、食事とワインを楽しんでいます。私は一つずつ味見をしただけで、ほとんど食べられず。

食事の最後にシェフ(女性でした)と彼女の手助けをした受刑者クック達の挨拶を聞いた後、私とジョン・クロードはすぐに刑務所を後にしました。
はっきり言って、この夜のヴィーガン夕食は私の口に合いませんでした。
少しがっかりしました。あれだけ待たされて、これ?という感じ。
100人分を用意するのは大変な仕事だと思いますし、慣れない刑務所のキッチンで料理をしなければいけなかったシェフは大忙しだったことでしょう(私もベジタリアンレストランでクックとして働いたことがあるので良く分かります)が、それにしても、塩気が強く口に残る、すっかり冷めてしまった料理(ヴィーガンでは当たり前?)は、残念でした。
前回のベジタリアン夕食は、いろいろ工夫された料理が運ばれて来て楽しく頂いたのですが。

ボロンティアで給仕をしてくれた受刑者達は前回同様、みんな明るい顔をしていました。特に前回見た寂しそうな顔をした黒人受刑者が、今回はニコニコ笑って話をし(顔がつやつや!)、仕事をしているのを見て、なんだか私はホッとしてしまいました。
前回は7年前でしたから、ああ、彼はまだ刑務所にいるんだ、という驚きはありましたが(この刑務所は重い刑の人から終身刑の人が集まっている)、寂しい顔から笑顔になってくれた彼は、その間に何か目覚めることがあったのでしょうか。

刑務所内では写真禁止です。